9月から同じ虹の集い執行部の「あっしぃ」こと葦澤智史とルームシェアをはじめた。
引越し準備やら部屋のレイアウトやら家具の買い出しやらに追われて、あっという間に夏休みが終わった。こんなに休めなかった夏休みは生まれて初めてだ。充実はしていたけど。
ラジオまだ見てない方はどうぞ。
アロマンティックアセクシュアル*という性的指向を自覚してからは、
恋愛興味ないし、たぶん結婚もしないし、一人で生きていくぞー!
待ってろ僕の楽しいぼっちライフ!!
と思っていたのだが、気がつけばなぜかサークルの後輩と2LDKに住んでいる。
今回のルームシェアには、気まぐれではないたくさんの理由がある。
質問箱にいただいた質問への返答も交えながら、なぜ僕があっしぃと暮らしたいと思ったのか、二人の仲良しの秘訣を紹介していきたい。
*アロマンティックアセクシュアル:性的指向のひとつ。恋愛感情や性愛感情が他人に向かない。
目次(クリックでジャンプできます)
ルームシェアが実現するまで
きっかけ
どうしてこのタイミングでルームシェアを始めたのですか?きっかけや経緯が気になります😲
また、これからずっとルームシェアをしていく予定なんですか?
実は、昨年も別の友人とちょっとしたルームシェアのような生活をしていた。
僕は朝が弱い。一人だと朝食をすっぽかして10時ごろまで寝ていたりする。
起きたとしても、冷蔵庫のご飯をチンして梅干しを乗せるだけみたいなしょぼいご飯しか食べない。
それを友人は朝決まった時間に起きてちゃんと二人分の朝食を作ってくれるのだ。神である。
僕は朝食が出来上がる頃に起きてきて、寝ぼけながらコーヒーを淹れるだけで、美味しい朝食が食べられる。
これがまぁありがたかったのである。早い話が完全に胃袋を掴まれていた。
友人は就職先が決まり、3月には地元に帰ってしまう。4月からまた怠惰なライフを送るのだろうと思っていた1月末、あっしぃから、8月頃に一人暮らしを始めようと思っているという話を聞いた。
なんというタイミング。次の犠牲者が決まった。
新たな朝食要員を逃す手はないと、僕からあっしぃにルームシェアを持ちかけた。
ルームシェアしたいと思わせたい
当時、あっしぃはルームシェアにそこまで乗り気ではなく、「近くに住んで食費シェアしませんか?」とか言っていたが、なにせ僕は朝食要員がほしいのだ。
近くに住んでたところで朝起こしてもらえなければメリット半減、いや8割減といったところか。
やだ!絶対シェアにもってきたい!!
あっしぃにもっと気に入られるべく、甲斐甲斐しく尽くしては、ご機嫌をとりまくる日々が始まった──
──否。僕は「ルームシェアいろいろ」なる*Googleスプレッドシートを作成した。
こちら、完全なシェアと近くに住む半シェアのメリットやデメリットを点数制で評価できるほか、両者が物件に求める条件や互いの性格の長所短所を比較できるというスグレモノである。
そう、僕は自分は何も変わろうとしないまま、プレゼンによってあっしぃをルームシェアに引き込もうとしたのだ。
驚くべきことに、作戦は成功した。「完全シェアはたぶん迷惑かけちゃうので」とのたまっていたあっしぃは、一週間後には「ルームシェア楽しみ!」と言うようになった。
*Googleスプレッドシート:Googleが提供する表計算ツール。ExcelのWeb版みたいな感じ。
こだわりの自室にはおしゃれなライトとディスプレイラック。壁紙も貼った。
お泊り会で課題が浮き彫りになるはずだった
そうは言っても、実際にルームシェアができるか、つまり二人の相性は、一緒に暮らしてみなければわからない。僕たちは数日間のお泊り会を何回かすることにした。
お泊り会の本質は、ルームシェアのデメリットを見つけることにあった。
一般的には、この段階でお互いの欠点やルームシェアの楽しくない側面が見えてくるものだ、と思う。
二人の相性の悪い部分を見つけて、どうすれば解決できるのか、あるいは、ルームシェアができないほど致命的になるかどうかを話し合っておきたい。
実際、二人の習慣や価値観、生活リズムの違いなどが明らかになった。
ただ、そのほとんどが相手の行動と関係なかったり、簡単に埋められる違いだったのだ。
はじめはルームシェアやお泊りに浮かれて状況を見られていないのかと思ったりもしたが。
青西 「どうしよう、全然大丈夫なんだよね」
葦澤 「ほんとにいいことしかないですね、困りましたね」
と冷静なトーンで会話をするあたり、両者しっかり落ち着いていたような気がする。洗えど洗えど二人の相性の良さが見えてくるばかりだった。
それどころか、僕は朝ちゃんと起きられるし、あっしぃは精神が安定したりよく眠れたりするらしい。
唯一の問題点といえば、あまりに波長が合いすぎて夜中まで話が止まらなくなるということぐらいだ。
ただこれは、泊まる期間が決まっているせいで話したいことを分散できないからでは?ということで、むしろ一緒に住んじゃったほうが一回に話す時間を短くできるはずという結論に落ち着いたし、実際そのとおりになった。
最終確認
7月中旬からは「夏季合宿」と称して、3週間のお泊り会をした。
大学はちょうど期末のテストや課題の時期、つまり二人のストレスが増えるタイミング。
今回の目的は、精神的な余裕がないとき、共同生活がさらに互いを追い詰める材料になりえないかを見極めること。健やかなるときも、病めるときもちゃんと共同生活ができるかってことだ。
相手が忙しいときに家事を担当して、お互いに助け合って暮らせるだろうことは予想がついた。でも、たとえば課題に集中したいのに相手の生活音が気になるとか、メンタルをやられて相手に八つ当たりするようだと、メリットよりもデメリットが大きくなってしまう。
結果として、2泊3日だった今までのお泊まりが3週間になっても、生活はあまり変わらないままだった。1回ぐらい喧嘩になるかと思ったが、僕らは本当にずっと仲良しだった。
そして、気がついたことが一つ。
朝8時、歯磨きを終えた僕は食パン3枚をトースターに放り込むと、電気ケトルのスイッチを入れる。冷蔵庫からヨーグルトを取り出したら、コーヒー豆を10g…あれ…
朝、起きれるようになってるー!!
ある程度生活リズムが整えばいいなーとは思っていたが、まさか朝を克服してしまうとは。
予想もしなかった共同生活の副産物だった。
僕たちはやっぱり大丈夫だという確信を得て、夏休みのはじまりとともに夏季合宿は幕を閉じた。
夏休み中、あっしぃの完璧なタイムマネジメントのもとで毎日のように引越し準備に奔走した僕は、ただの一度も昼夜が逆転しないという偉業もとい異業を達成した。
リビングの一角をコワーキングスペースに。
ビジネスライクが心地よい二人だった
発案から半年。僕たちは念願の新居を手に入れた。
僕があっしぃとのルームシェアを決断するために不可欠だった、僕たちのいいところを紹介しようと思う。
報連相ができる
一緒に生活していて喧嘩とかしないんですか?
する場合は仲直りの方法、しない場合は喧嘩しないコツを教えてほしいです!
仲の良いお二人ですが、共同生活を始めてから、もめたことはありましたか?
あった場合、どんな内容でどう仲直りしましたか?
僕はもともと、怒るのが苦手だ。というより、怒ることにあんまりメリットを感じない。
声を荒げるのは体力を使うし、相手が萎縮して言いたいことが伝わらなかったりする。
できれば、感情と理性を切り分けて、行間や言葉の裏を取っ払って、字面だけで話し合いたい。
特に友達付き合いの場面では、これが結構「冷たい」「心がない」「フラットすぎる」などなかなか酷評だったりするのだが、あっしぃは僕のこういうところをやたらとありがたがってくれる。
なんでも、「怒られないことがわかっているので、とりあえず言ってみようと思える」らしい。
「とりあえず言ってみよう」と思える関係性って意外と難しい。
これを言ったら嫌われるかも、迷惑かも、きっと怒るなぁ、といった消極的な憶測は、しばしば人をコミュニケーションから遠ざける。
僕は温もりの少ないコミュニケーションしかできないが、他人の言葉を聞いたとき、それを自分の感情や相手の人格と結び付けないのは、それが自分なりの誠実さだと思っているからだ。あっしぃはそれをうまく汲み取ってくれたので、小さなことでも気軽に報告しあえる関係を作れたのかもしれない。
メンタルケアはセルフ or 他の人
「ここだけは譲れない!」マイルールはありますか?
あっしぃとのルームシェアの話が持ち上がった時、まずはじめに彼に伝えたのは、「精神的な寄り添いはできない。僕以外を頼ってくれ」ということだった。
我ながらなかなかに冷たいことが言えたものだが、そのぐらい僕は他人に共感して寄り添うのが苦手なのだ。
そもそも、自分があまり悩みのない人間で、落ち込むことがあっても寝れば治まってしまうので、メンタルケアが一方的になりがち。
しかも経験上、落ち込んでいる相手を自分の話術やスキンシップで元気づけられた試しがない。これは自分の成長に期待するより、もう最初から諦めてもらうほうが早い。ごめんあっしぃ。
いまのところ、あっしぃはメンタルの不調を自分や友達の力でうまく解決してくれているようだ。それでもやはり何も手伝える部分がない申し訳なさのようなものも、まあなくはない。そんな話をあっしぃにしてみると、なんと彼いわく「先輩がいるだけでメンタル的に助かっている」らしい。
ありがたいことに、僕にとっても「存在するだけで肯定される空間」が爆誕したわけだ。これまたお互いの精神の安定に一役買っているようである。
客観的な記録を残す
僕たちは二人とも、アプリやツールを使ってお金や予定を管理したり、買い出しメモを作ったり、とにかく記録をつけるのがあまり苦にならない。
むしろ、言葉だけで伝えるほうが面倒なのだ。なにしろあっしぃは毎日忙しいし、僕は他人に興味がないので、記憶力が全然頼りにならない。
「あれ、今日って夕飯いらないんじゃなかったの?」
「いや、夕飯いらないのは明日って言ったよ」
「いや絶対木曜日って言ってた」
「○日って言ったじゃん」
みたいな不毛な言い争いになりかねないし、僕にとってこれは時間とエネルギーを割くに値しないくだらんことなので、面倒は全部パソコンに解決してもらうことにした。
幸い二人ともパソコンの扱いはそこそこ得意だったので、Googleカレンダーで予定を共有したり、財務管理のGoogleスプレッドシートを作ったり、iPadを持ち出してみたりと、結構楽しんで記録のための環境を整えることができた。
僕たちはデジタルでの管理が向いていたが、ホワイトボードやノートを使って情報を書き残すのも、もちろんやり方のひとつだと思う。
細かいルール設定や話し合いができる
大事なのは、きちんと話し合って、お互いが納得できていること。
ルールを相談する中で、二人の価値観や水準の違いが見えてくる。
食器や部屋がどのくらいきれいなら満足か、朝は何時に起きて何を食べたいか。こだわりの日課は?洗濯の頻度は?自分の時間はどのくらい必要?
価値観の違いがわかったら、ルールを決めていく。
家事などの作業なら、得意な方が担当してもいいし、半分ずつやるのもいいし、全く新しいやり方を考えたっていい。
ここで間違えたくないのは、「ルールは絶対」ではないってことだ。
ルールを守るのが負担になったり、もっといいルールを思いついたら、また相談して納得できる新ルールに改定すればいい。
家事はどう分担しているんですか?
青西&あっしぃさんへ 家事分担はどうやってしていますか?
たとえば食器洗い。食事の後、僕はしばらくゆったりと過ごしたいが、あっしぃは割とすぐに動けるタイプなので、食器を洗ってくれることが多かった。いわゆる「気づいた人/できる人がやる」のパターンだ。
すると、僕は別に洗い物をサボるためにゆったりしているわけではないので、「いつも洗ってもらっているなぁ」となるわけだ。そこで僕から「食器洗いは、『ご飯を作らなかった方』にしない?」と提案して新しいルールができた。
もちろん、食後に予定があって相手に調理も洗い物も頼むことだってある。
そんなときに「ありがとう。夕飯のときは自分がどっちもやるね」と柔軟でフェアな分担ができるのも、僕たちのいいところだ。
「楽」の方向性が似ている
僕たちの共同生活は、「ドライ」に見えることも多いようだ。たしかに、二人で寄り添って過ごすというよりも、二人で生活を運営しているという方が近い。
普段の会話では、マネジメントだの効率だのモチベーションだの、意識高い系みたいな言葉が飛び交っているし、突然虹の集いの企画会議がはじまったりもする。
正直何が楽しいのかわからない人も結構いると思う。めんどくさそう、細かいと感じる人も多いかも。
でも、生活をシステマチックに運営するのが、二人にとって「楽」で「楽しい」やり方で、限りなく理想に近い共同生活の形だった。
社会がどうあれ、家の中には自分たちしかいないのだ。
せめてこの空間だけは、二人がいちばん「楽」を感じられる世界に。
自室の机は自作。小物やライティングも趣味全開だ。
「減点が少ない」こと
これらはあくまで僕が思う心地よさ。
理想のルームシェアの形は、人によってきっとさまざまだ。
ずばり、共同生活に踏み切った決め手は!?
同じ家にいて気を使う事もあると思いますが、互いにすごく気になる事とかありますか?
ここまでいろいろな「メリット」を挙げてきたわけだが、僕にとって最大のメリットは、「デメリットの少なさ」だった。
僕はもともと他人と暮らすことへの抵抗感は少ない方ではあったが、共同生活というものは結局のところ、誰が妥協するかの積み重ねだと思っていた。
ところが、僕とあっしぃの間には──少なくとも僕が感じる限りでは──致命的な妥協が圧倒的に少ないのだ。致命的な妥協というのは、妥協を超えて「我慢」に入る状態だ。
持論だが、我慢って蓄積して、幸せを侵食したりする。
全体としては幸せでも、ふとした瞬間のちいさな我慢が幸せの底に沈殿していて、なにかの拍子にかき回されると、幸せの部分まで濁ってしまう。
あっしぃとの共同生活には、我慢が本当になかった。
それは、僕たちの気が合うからだけじゃなく、いつも意識的に「自分や相手が我慢していないか」を確認しているからでもある。
心を許しあえる仲でも、それぞれ独立した人格。だからこそ敬意を払うのを忘れない姿勢を、お互いが持っているのだと思う。
だから僕は今日も、淀みのない幸せに浸っている。
限りなく低リスクで低コスト、燃費のいい二人だからこそ、僕はこの人とルームシェアをしたいと思った。
今、出会えた幸せ
あっしぃを両親に紹介して、付き合ってないけど一緒に住むととても楽しそうなんだと言った時、僕の両親が初めに言ってくれたのは、
学生のうちに一緒に住みたいとまで思える人に出会えたって幸せなこと。大切にしなきゃね
ということだった。本当にそのとおりだと思う。運命だなぁと思ってしまうぐらい、あっしぃとの出会いは僕にとって「特別」だった。
あっしぃに対する恋愛感情はぜーんぜんないけど、自分がもし結婚するとしたらこういう人なんだろうと思うぐらいだ。
だからといって結婚願望が芽生えたわけでもない。あっしぃとのルームシェアが終わるときが来たら、きっとその先はひとりで楽しく生きていく。
それでも、僕のそれなりに長そうな人生の中で、今あっしぃに出会ったことが、僕のこれからの人生を数段豊かで濃いものにしてくれたことは間違いない。
マイノリティ同士、先輩と後輩、恋愛0のルームシェア。
へんてこだけど面白い幸せの形を、今日も僕らは生きていく。
文 青西凛(23・アセクシュアル) 虹の集い執行部
ブログを書きたい書きたいと言いながら、時間もネタもなくずるずるとここまで来てしまったが、後輩との二人暮らしがバレてしまった今、さすがに「ネタがない」とも言ってられず、満を持して執筆にこぎつけた。
Comments