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  • 執筆者の写真葦澤智史

いまを、寂しさとともに生きる

冬の訪れを感じる。

締め切った部屋のなか、不安や、怒りや、悲しみがうずまくこの世界に思いをいたす。

私たちはこの時代を生きるなかで、何を失い、何を手に入れるのだろうか。



⛄僕は居場所が欲しかった⛄


「葦澤くんはどうしてLGBTsサークルの運営をしようと思ったの?」

僕が虹の集いの執行部になってから「葦澤くんからすごい答えが返ってくるのだろう」という期待交じりに聞かれることがある。


「この世界にひとりでいるのが寂しかったから。」

ただそれだけだ。情けない答えだが、僕は居場所が欲しかった。



寂しさを糧に頑張れる子ども⛄


もともと僕は寂しさを糧に頑張れる子どもだった。

田舎から北大を目指して札幌の高校を受験したのも、高校で部活に没頭したのも。自分に似た仲間と出会って、寂しさを分かち合いたいからだった。20歳になったいま、たくさんの団体で活動をしている理由もきっとそう。

しかもその実現欲求というか、なんとしても目標を叶えようというエネルギーは凄まじかった。おかげで僕はすべての夢をかなえることができた。そうしていまの自分がある。



⛄ただ一つ、僕が逃げてきたこと⛄


ただ一つ、僕が逃げてきたことがある。寂しさと正面切って向き合うことだ。


この春。一日じゅう家にこもって過ごす時間が増え、寂しさが増した。僕と、その周りにいる大切な人たちとのつながりは、音を立てて絶たれていった。

なんとなく、部活に没頭し大量のタスクをさばいていた高校時代が恋しくなって、僕は寂しさをエネルギーに膨大な量の仕事を抱えるようになった。そうして誰かの役に立つことで、自分を認めることができると思ったからだ。


そうして寂しさを濁すことをおぼえ、いっぽうで生きる意味のようなものを失った。

多すぎる仕事を前に、僕は燃え尽きた。自分は何者で、自分が活動をするのは誰のためなのかが、わからない。仕事に手がつかなくなると、寂しさから逃げる手段がない。ふたたび募っていく質の悪い寂しさは、頑張るためのエネルギーにすらならなかった。


自分で勝手に燃え盛っては消沈するさまが、自分であまりにも惨めに思えてならなかった。しかし精神的にぶっ潰れた以上、虹の集いにも、他の団体にも「ごめんなさい、仕事できません。」と報告するほかなかった。7月、拷問のような日々だった。



⛄「偽善になっちゃうんじゃないかな」⛄


だがその時期に出会った言葉に、僕は救われることとなる。


僕がクリエイターとして所属しているNPOのリーダーに、仕事量を減らさざるを得ない旨を報告したときのことだった。リーダーは僕にこんな言葉をかけてくれた。


「俺は、俺やまわりの仲間が幸せに活動できることが一番だし、そういう仕組みをつくるのが好きだから。君は、君が一番楽しんで取り組めるペースで楽しんでくれればいいんだよ。社会のためにすべてをささげますっていうのは、外向きには聞こえがいいけど偽善になっちゃうんじゃないかな。」と。


救われた。ただただその言葉に救われた。いまでも感謝しつくせないほどに。



僕は寂しさから逃げることをやめた


この言葉を機に、僕は寂しさから逃げることをやめた。そうして仕事をかかえ過ぎないようになった。さらには自分でも驚いたことに、僕は案外寂しくない人間なのかもしれないとすら思えるようになっていった。


寂しさを糧に頑張った高校の放送部。そこで出会った仲間たちが、いまでは僕がゲイであることを受け入れてくれている。誰かが「zoomで同期会やろう」と言うと、「そこまでして会いたいなんて大げさだな、でも僕も会いたかったよ。」と思いながら、自分も参加する。そうやって大学生になっても夢を語り合ったり、一緒にサークルで活動したりする関係になった。高校時代には誰も想像しえなかった、思いがけないけれど、確かな幸せ。


寂しさをさらけ出してもそれを全力で受け止め合える関係のなかで、自分は生きているということを知った。もし今年もいままでと同じ日常が続いていたなら、寂しさから逃げ続けていた僕はきっと気づけなかっただろうと思う。


そして、居場所が欲しくて飛び込んだこの世界でも、虹の集いのメンバーをはじめ本当に大切な仲間に出会うことができた。



ほんとうのさいわいは一体何だろう


改めてリーダーの言葉がよぎる。そして思う。

僕や僕のなかまが幸せになる過程で、社会のどこかで生きる誰かを幸せにできたなら、それは本当の幸せなのかもしれない。

8月、生きるということの意味を知りたくて、本を読んだ。

「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」ジョバンニが云いました。
「僕わからない。」カムパネルラがぼんやり云いました。
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』より

いまを生きる。人はただそれだけのことが、わからなくなるときがある。僕もまだきっと、ぼんやりとした幸せの手がかりを見つけたに過ぎない。



⛄いまを、寂しさとともに生きなければならない⛄


混乱するこの世の中で、人と人との繋がりがふたたび音を立てて絶たれようとしている。

僕たちはいまを、寂しさとともに生きなければならないのかもしれない。

不安や、怒りや、悲しみがうずまくこの世界で、何を失い、何を手に入れるのだろうか。

「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら峠の上りも下りもみんな本当の幸福に近づく一あしずつですから。」
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』より


文 葦澤智史(20・ゲイ) 虹の集い執行部

プロのクリエイターになるべく、いろいろな団体でクリエイター修行に取り組む北大生。どんなにホワイトな組織にいても社畜になれる才能の持ち主。座右の銘は「ワーク・ライフ・バランス」(未実現)

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