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執筆者の写真葦澤智史

灯台と船

9月14日。この日から僕は、人生で初めての共同生活を始めた。

生活を共にする相手は、青西凛。

北大LGBTQ+サークル虹の集いで一緒に活動する先輩だ。


僕は凝り性で、先輩は飽き性。

僕はご多忙人間で、先輩はのんびり屋。

僕は毎日決まった時間に眠たくなって、一方で先輩は夜更かしが好き。

そして日によってはそれが入れ替わったりする。


あと、僕はゲイで、先輩はFtXのアセクシュアル。

互いに確認済だが、一緒に住んでも99.9%恋仲にはならない。



そしてもう一つ特徴をあげるならば、

僕は変わり続ける人で、先輩はずっと変わらない人だ。


趣味が合ったり、価値観や性格が合ったり、

でも全く違う環境で育ってきた2人の関係は、

まるで「灯台と船」のようだと思うことがある。


僕は船。

常に誰かを乗せて、どこかに進み続けている。

どうやら変化し続けないといけない運命らしい。

だから、常に新しい経験や成長を求めて、日々変化し続けている。


「自分を変えたい。自分の生きる世界を変えてみたい。」

そう思って僕は虹の集いに参加した。大学1年生の春だった。


その行動力を面白がってくれたある先輩が僕を執行部に誘った。1年生の秋だった。

「やりたいことが止まらなくなって、また忙しい毎日になるぞ。」

直感的にそう思ったのを僕はよく覚えている。


予想は見事に的中した。

僕が執行部員になるやいなや、大規模イベントの主催依頼が舞い込んできて、そのながれで自分がチーフのような仕事を担うようになった。

2020年9月に実現し、のちに北大初の課外活動賞タブル受賞を果たした、映画上映会&トークイベントへ向けた日々の始まりである。


いままでの虹の集いが見てこなかった世界を見たいと思った。

気づけばその思いは仲間と共鳴しあい、イベントを成功させる大きな原動力になっていた。

ゲストをお呼びして、大学や札幌市に後援を得て、報道機関の取材が絶えない日々だった。


「大学生のうちに何かがしたいけど、かといって自分から行動してきたわけでもなく。」

そんな仲間を乗せて、みんなと一緒に誰も見たことのない世界を航海する。

僕はそんな船なのらしい。


灯台

先輩は灯台。

とにかく毎日どしんと構えている。

面白いことに、まったくもってブレない人生らしい。

太陽のような明るさはないが、そのくせとてつもない存在感を放つ。


「なんか知らないんだけど、僕、悩みないし、生きやすいんだよね」

ゲイとして生まれ育ったことにとてつもない引け目を感じていたかつての僕は、

男女の概念が無かろうがブレることもなく、どしんと自分軸をもった先輩に度肝抜かれた。


そんな灯台のような先輩は、僕という船に乗り込んだ乗組員の一人でもあるらしい。


自分流の生き方を貫くことに迷いなどなく、一方では恐れずに新たなことに挑戦し、

他人が苦労して積み上げたスキルに興味を抱いては、真似をする。

そうして、先輩はさほど苦労なく上達していくので、僕からすれば嫉妬ものである。

僕が先輩に教えたサークルのポスターや動画の編集も、いつの間にか僕が先輩にデザインスキルを習う始末である。


"変化"という荒波

話は変わるが、船は時に、大きな荒波にもまれることがある。

前例のない挑戦に突き進んだり、船に乗り込めないほどの仲間がついてくるようになったり、見落としていた重大な欠陥が浮き彫りになったりと、変化の力は本当にすさまじい。

そうやって定期的に、船には危機が訪れる。


僕はそのたびに混乱し、再び自分を変革する必要に迫られる。

自己を反省し、嫌悪し、迷い、目眩い、うずくまりながら、荒波を超えてゆく。

数年前とは違って、船には何十人もの仲間が乗っている。

「難破してしまったらどうしよう。」

そんな焦りにまた胸を焦がす。

改めて、いま自分が生きている人生は自分だけの人生じゃないということに気づかされる。


ついこの前まで一人孤独にこぎ続けてきた僕の小さな船は、

いまでは誰かとともにある船であり、それは誰かとともにある人生なのだ。


こんな荒波に呑まれかけたとき、僕らの「虹の集い」という船には、一筋の光が届く。

青西凛という灯台の光を頼りに、そのたびに困難を乗り越えてきた。

リスクを整理し、状況を的確に判断し、物事を正しい方向に導いてくれる。

振り返ればこの2年間、虹の集いはそんな日々の繰り返しだったように思う。



僕らが生きるLGBTQ+という世界は、まだまだどこまでもが波の荒い海だ。

ゲイとアセクシュアルが、相思相愛とは程遠い二人が、大学生の分際で共同生活を始める。

なにもかもが前例のない試みを、心から応援してくれる人などほとんどいなかった。

それでもかすかに吹き始めた追い風と、灯台の光を頼りに、力強く未来へと舵をとる。


いつかまだ見たこともない世界を見てみたい。そうして荒波も乗り越えて行きたい。

そうやって僕らのライフスタイルがまた、誰かの船となり、灯台となることを誓って。


"隠れ家"に込めた想い

僕らが、そして僕らの仲間が、そっと羽を休められる場所になるように。

そう思って、この家にKakuregaという名前をつけた。


僕にとっては険しすぎた航海の中、やっとの思いで見つけた光が青西凛という存在だった。


きっと先輩は、

「ねえねえ聞いてよ、あっしぃっていう変わった奴がさ、勝手に興味ありげにこっちに近づいてきてさ、でも面白そうだから一緒に住むことにしたんだ~」

ぐらいにしか思っていない。

でもそのお気楽さが、青西凛という人間の最大の魅力だとも思う。



文 葦澤智史(21・ゲイ) 虹の集い執行部

本当の自分に出会うためと思い、もろもろの苦難を乗り越えてルームシェアにこぎつけた。最近は、飲み物をこぼすと「あらやだぁ💙」と言ってしまっている自分に気づいた。また一つ、本当の自分に出会った。



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